第5回 看護・介護エピソードコンテスト『大切な「おはぎ」』 細名 優花さん
私が介護の楽しさと出会ったのは、高校1年生の夏休みです。幼い頃から曾祖母と話すのが大好きだった私は、自然と福祉の仕事に就きたいと思い、介護福祉士の受験資格が取得できる高校に入学しました。授業の中で、排泄介助や入浴介助の学習をした時、私はまだ介護の現場を甘く考えていました。教科書と現場は全くの別物でした。
高校に入って初めての夏休みに、特別養護老人ホームで5日間介護実習をさせていただきました。たくさんのご利用者様と出会い、初めての経験ばかりでとても緊張し、「介護ってきついな…嫌だな」と思い始めていました。
4日目の夕方、夕食も終わり日勤の職員の方も帰り出した頃に、廊下の方から「おーい!そこのお嬢ちゃーん!」とひとりのご利用者様が手に何かを大事そうに抱えこちらへ走ってきました。近づくと、その手の中には立派なうんこが丸めてありました。目を見開いて確認してもやはりうんこです。私は驚いて「それどうしたんですか!?」と聞くと、ご利用者様は嬉しそうに「あんた毎日頑張っとるけんね、おはぎ作ったんよ。遠慮せんで食べなさい、頑張るのよ。」と笑顔で差し出してくださいました。このご利用者様は認知症が進んでおり、時々弄便をされてしまう方でした。当時の私は排泄介助が特に苦手で、まだ慣れておらず、普通なら眉間にしわを寄せてしまっていたでしょう。しかし、あんなに尿や便の匂いが苦手だったのに、ご利用者様の優しさと、家族になかなか会えなくて寂しいはずなのに、こんな私のことを気遣って下さる気持ちに胸がいっぱいになりました。実習に来た時から、夕方になるといつもご家族を探して施設を歩きまわっている方でした。あまり話したことはありませんし、廊下ですれ違い話しかけようとしても見向きもせずに行ってしまいます。その方の頭の中はご家族のことでいっぱいだったでしょう。それでも、ほんの少しでも、私という存在を気に留め、心配してくださった、そのことがとても、とても、嬉しかったのです。
もちろん、その後はきちんと手袋をはめてから、おはぎを有り難く受け取りました。そして、私が「ありがとうございます。手を洗ってから一緒にお菓子でも食べませんか?」というと、ご利用者様はにっこりと笑って何度も頷いてくださいました。私はその時初めて、介護って楽しい!と思うことができました。
その後の実習も、悩んだり迷ったり、自分は向いてないのではないかと思うことが何度もありました。着脱介助の手順を頭では覚えていても、いざ現場に出ると、小さな失敗から大きな失敗までたくさんのご迷惑をおかけしてしまいました。しかし、その度に職員の方の励ましや、ご利用者様の優しさに何度も助けられました。そのおかげで、私は今も福祉の道を諦めることなく歩むことができています。
高校卒業後、無事に介護福祉士の資格を取得した私は、もっと幅広く福祉の勉強がしたいと思い、社会福祉士と精神保健福祉士の受験資格が取得できる大学に進学しました。それでも、介護の楽しさを忘れられなかった私は、大学に通いながら有料老人ホームで介護福祉士としてアルバイトをしています。ご利用者様が抱えている疾患や、性格、家族構成や生活歴など、同じものは1つとしてありません。それでも、今の私はあの「おはぎ」をくれたご利用者様の笑顔を思い出しながら、楽しく介護をさせていただいています。
今、介護はきつい・汚い・給料が安いなどと言われていますが、それ以上に温かい人との出会いが自分自身を成長させてくれます。私はこれからも福祉を通して自分が楽しむだけではなく、いろいろな方に介護の楽しさを伝えられる人間を目指していきたいです。