第10回 看護・介護エピソードコンテスト『アトピーの集団介護』
木俣 肇さん
木俣 肇さん
私はアレルギー科医でアトピーの方々を長年診療している。アトピーの重症な方は、生活の質が低下し、低下の程度に応じてアドバイスや生活の仕方の介護が必要になるが、アトピーの介護は社会的に理解が少ない。アトピーで介護職のNさんが受診したが、長年外用薬で改善せず塗布すると悪化するので塗布を中止していた。皮膚は傷も多くじくじくの顔も滲出液が吹き出ていた。仕事は介護であるが、皮膚症状が介護者に感染するので、改善するまで休職するように言われて困っていた。症状はリバウンドであり、他人に感染はしないのでカバーして介護すれば問題ないという説明を会社にするようにアドバイスした。しかし会社はそれを了解せず、休職を強要した。介護職なので外見の状態も関係すると思われたが、しかし顔の状態で勤務できないのはアトピーの方への差別である。
アトピーの方の就業には差別が多い。会社が外面を気にして営業から別の部署に強制的な変更も要求されるので、患者さんが会社と話しても要望をきいてくれない時は、私が会社に説明する。アトピーは皮膚の疾患であるが、仕事には差し支えない。しかし精神的な苦痛もあるので、孤立せず仲間と社交性を保つのが早い改善になる。そういう介護がアトピーの方に必要と言うことは理解されていない。だから、休職することは孤立してストレスが強くなり悪化に繋がる。オキシトシンというホルモンがあり、色々な作用があるが、社交性とも関連している。アトピーの方で皮膚症状があるが肉体的には就業には問題ない方でも、精神的に就業できない方がいる。その場合はオキシトシンが低下している。そういう方に、「就業は治療と思ってください。」と説明し、働いて仲間と交流すると、就業前に比べて唾液中のオキシトシンが増加する。そして皮膚症状も改善が早まる。
上記の様なことをNさんと会社に説明した。仕事として介護をすることが、Nさんのアトピーの介護に繋がる。そう力説すると、Nさんは非常に介護職へのモチベーションが沸いてきたが、会社がなかなか了解しない。「じくじくは感染症であり、それがうつったらどうするのか。」「見た目にひどい状態の方を働かせていると、会社のイメージが悪くなる。」というような理由で、了解しない。そこで診断書でそのことを書いて、強調した。診断書は公文書なので、その効力は医学的なもので法律的にも有効であり、会社も承諾した。しかし、一般的には診断書にはそこまでは書かない。このような差別的対応をする会社は、今までにも何回もあるが皆説明で了解してくれた。診断書は強制的に会社に介護を要求するので、会社とNさんとの関係にも影響があり、話し合いで了解したい。
その後、Nさんはリバウンドが長引き、受診の度に辛さを訴えた。ある時は不眠で、それには睡眠薬を処方した。別の時は体の痛みで、それは痛み止めを処方した。足の滲出液がひどく、足が腫れて歩行困難な時は、利尿剤を処方した。全てリバウンドの症状で、それぞれ内服して改善した。今まで経験したことのない症状に、精神的にも辛かったが、同じような症状の方の写真をパソコンで見せて、改善の過程を理解すると安心された。アトピーも改善して見た目も傷がなくなったので、介護の仕事も順調にできた。受診できないときは、ファクスで質問を受付、病院宛に送って貰い、すぐ返事を書いた。その料金は無料でやったが、職員からはファクスが多くて届けるのに負担になるという、不満もでた。そこで郵便物と一緒に持ってきて貰うようにしたら、職員の負担もへりスムーズになった。リバウンドの状態では、次々とおこる事が未知なので、Nさんは非常に悪くなっているのかと、心配であった。それはストレスになり、アトピーの症状を悪化させる。その時、適切なアドバイスでストレスが改善する。そういう細かな介護が重症なアトピーには必要である。
Nさんはその後順調で、アトピーも治癒した。仕事も生きがいをもって働いている。Nさんを追い詰めた会社も、Nさんをみて見解を改めた。アトピーの方も積極的に新入社員で入社させるようになった。また応募する方も、アトピーでも介護職につけるということで、多くの方が応募してきた。その中での新人で、FさんとTさんとYさんとがアトピーであり、私の治療を希望して受診してきた。3人とも外用剤で改善せず、顔の傷と滲出液が多かった。Nさんのように治療をしてファクスで質問を受けた。すると、3人がまとめて1枚の紙に質問を書いてきた。そこで3人分の返事を書いた。そういうやり取りを数ヶ月して、3人とも改善、治癒した。その間、会社は3人を励ましてくれた。Nさんの前例があるので、職場の理解もよく、さらに顧客も応援してくれた。アトピーの方が複数働いている介護の会社と話題になり、周囲の方々も好感的であった。3人はチームワークがよく、お互いに改善効果を比べて、アトピーの改善度を喜びに変えて競っていた。診察にもきちんと通院し、内服をのみカバーもしっかりした。皆で一緒に治療するということが、より前向きになれ、お互いの改善も理解でき、治療効果があがった。3人セットのファクスも次第に来る回数が減り、そしてなくなった。治癒である。3人ほとんど同時に治癒したのは一緒にがんばろうという仲間意識が強く、オキシトシンが増加した為かもしれない。私の介護としては、診察時のアドバイスと、頻繁なファクスでの質問への回答である。こういう形の介護がアトピーにはない。病院職員の協力で私はできたが、医療機関のスタッフの理解も必要である。そして会社が心配するような、外見が悪いことは介護としての仕事の妨げにはならなかった。むしろ、ある種の病気や障害をもっている方が、親身で介護をしてくれるという、仲間意識が介護される方には強く働き、スムーズにいった。いわば、介護を必要とする方達の気持ちをよりよく判るアトピーの介護職という感じである。アトピーの方の介護が理解されることを願う。